オーディオインターフェースを買うとき、最初に目が行くのって「何入力あるか」とか「いくらか」じゃないですか。でも、録った音の質を一番左右してるのは、実はその手前のマイクプリアンプなんですよね。同じマイクを挿しても、プリアンプのゲインの余裕とノイズの少なさで、声の生々しさとサーッというヒスノイズの量がけっこう変わっちゃう。
この記事では Focusrite・Audient・SSL という宅録の定番3ブランドから7台を選んで、マイクプリの最大ゲイン・入力ダイナミックレンジ・入出力構成という、メーカー公式が数字で出している項目だけで並べ替えます。各社が公式仕様で公開している値を一次情報として参照して、「どのブランドが、どういう用途に向くか」をスペックで切り分けていく構成です。マイク選びの話は別記事(「声が遠い」と言われるの、マイクのせいかも — 在宅会議で詰むUSBマイク6機種)にまとめてあるので、ここはインターフェース側に絞ります。
オーディオインターフェースで音が決まる3つの段
インターフェースの中で音が通る道は、おおざっぱに「プリアンプ → AD/DA変換 → モニタリング」の順です。どこも手は抜けないんですけど、宅録で差が出やすい順に見ていきます。
マイクプリアンプ — ゲインの余裕とノイズの低さ
マイクから出てくる信号はすごく小さいので、録音レベルまで持ち上げる増幅器(プリアンプ)が要ります。このときの最大ゲイン(dB)が大きいほど、感度の低いダイナミックマイクでも余裕を持って鳴らせる。たとえば Shure SM7B みたいに出力の小さいマイクは、ゲインが足りないインターフェースだと音量を稼ぐためにツマミを振り切る羽目になって、そのぶんノイズも一緒に持ち上がっちゃうんですよね。
僕も最初、ゲインの数字なんて気にせず安い箱を買って、SM58 を挿したら「あれ、フェーダー上げきってもまだ小さい」ってなりました。あれはプリアンプの体力負けです。最大ゲインは Focusrite Scarlett 4th 世代が69dB、SSL 2+ MkII が64dB、Audient の EVO 4 と iD14 MkII が58dB と、同じ価格帯でも10dB以上ひらきます。
AD/DA変換 — bit / kHz とダイナミックレンジ
アナログの音をデジタルに置き換えるのが AD 変換、戻すのが DA 変換です。ここで効いてくるのが量子化ビット深度(16 / 24 / 32bit)とサンプリング周波数(44.1 / 48 / 96 / 192kHz)、そしてダイナミックレンジ(dB)。ダイナミックレンジは「録れる最小音と最大音の幅」で、数字が大きいほど小さい音が埋もれにくく、無音区間が静かになります。
いまどきの実機だと24bit/192kHz はほぼ標準で、SSL の2機種は32bit対応です。ただ「bit/kHz が高い=正義」ではなくて、宅録で実感できる差はむしろダイナミックレンジの方。Focusrite Scarlett 4th 世代はフラッグシップ RedNet 由来のコンバータで入力120dB、Audient iD14 MkII も同等クラスで、ここは各社かなり詰めてきています。
モニタリングと入出力の数 — 遅延と同時録音トラック
歌やギターを録るとき、自分の声をヘッドホンで返す(モニターする)わけですが、PC を経由すると遅延(レイテンシ)でズレて気持ち悪くなる。なのでインターフェース内で入力をそのまま返す「ダイレクトモニタリング」が要ります。配信でゲーム音と自分の声を混ぜたいなら、PC内の音を録音に流し込む「ループバック」も欲しい機能。
そして入出力の数は、同時に何トラック録れるかを決めます。弾き語りでマイク1本なら2入力で足りるし、ドラムやバンドを一発録りしたいなら4〜8入力が要る。この「将来何を録るか」が、実は価格より先に効いてくる観点なんですよね。
この地図で見ると、各社の性格がけっこうはっきり出るんですよね。Focusrite はゲインもダイナミックレンジも高い右上、Audient は iD14 MkII でダイナミックレンジを稼ぎつつゲインは控えめ、SSL は数字よりも「4K」と呼ぶ音色付けや多入力で勝負しにきている。数字が全部じゃないんですけど、出発点として地図があると向き不向きが見えやすいです。
数字の話に入る前に、実機の「顔」をざっと見ておきましょう。コンパクトな卓上機は、だいたい次のように役割が並んでいます(配置や名称はモデルで違うので、あくまで一例です)。
入出力・ゲイン・コンバータで7台を並べる
ここからは、実際に流通している7台を同じ項目で横並びにします。価格は2026年6月時点の国内実勢の参考値で、付属ソフトのキャンペーンやセールで上下します。
| 機種 | 入出力 | マイクプリ最大ゲイン | コンバータ | 入力ダイナミックレンジ | 接続 | 価格 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Audient EVO 4 Smartgain 自動ゲイン / JFET 楽器入力 | 2in / 2out(マイク2) | 58dB(EVO) | 24bit / 96kHz | 113dB | USB-C | ¥24,970 | R見る |
| Focusrite Scarlett Solo 4th Gen Auto Gain / Clip Safe・弾き語り入門 | 2in / 2out(マイク1+楽器1) | 69dB | 24bit / 192kHz | 120dB | USB-C | ¥19,800 | R見る |
| Focusrite Scarlett 2i2 4th Gen RedNet 由来コンバータ・宅録の定番 | 2in / 2out(マイク2) | 69dB | 24bit / 192kHz | 120dB | USB-C | ¥28,600 | R見る |
| SSL 2+ MkII 4K Legacy アナログ音色・ヘッドホン2系統 | 2in / 4out(マイク2) | 64dB | 32bit / 192kHz | 116.5dB | USB-C | 楽天で確認 | R見る |
| Focusrite Scarlett 4i4 4th Gen MIDI I/O・シンセや外部機器を増やす拡張枠 | 4in / 4out(マイク2) | 69dB | 24bit / 192kHz | 120dB | USB-C + MIDI | ¥39,800 | R見る |
| Audient iD14 MkII コンソール由来プリ・ADATで将来増設 | 10in / 6out(マイク2+ADAT8) | 58dB(Class-A discrete) | 24bit / 192kHz | 120dB(ADC) | USB-C + ADAT | ¥51,700 | R見る |
| SSL 12 プリ4基・トークバック・一発録り向け | 12in / 8out(マイク4+ADAT8) | 62dB | 32bit / 192kHz | 111dB(入力) | USB-C + ADAT | ¥88,000 | R見る |
※ ゲイン・ダイナミックレンジ・コンバータ・入出力は各製品の公式仕様(2026年6月時点)。価格は国内実勢の参考値 — 出典: Focusrite Scarlett 2i2 公式仕様 / Focusrite Scarlett 4i4 公式仕様 / Audient EVO 4 公式 / Audient iD14 MkII 技術仕様 / SSL 2+ MkII 公式 / SSL 12 公式
機種別レビュー — 7台それぞれの居場所
1. Audient EVO 4 — 自動ゲインで「とりあえず録れる」入門の現実解
EVO 4 は2入力2出力で、最大ゲイン58dB の EVO プリアンプ、24bit/96kHz の AKM コンバータ、ダイナミックレンジ113dB。価格帯は1万円台前半からで、宅録の最初の一台として無理がないところに着地しています。目玉は Smartgain で、マイクに向かって少し喋るとピーク解析で適正ゲインを自動設定してくれる。「ゲインの数字とか言われてもわからん」という入口の人が、つまずかずに録り始められる設計です。
数字の地図では左下に位置するんですけど、入門機としての価値はそこじゃない。設定で挫折しないことの方が、最初の一歩では効くんですよね。会議とたまの弾き語りくらいなら、ここで十分まかなえます。
2. Focusrite Scarlett Solo 4th Gen — 弾き語り1本に絞った最短ルート
Solo はマイク1+楽器1の2入力で、最大ゲインは Scarlett 4th 世代共通の69dB、24bit/192kHz、ダイナミックレンジ120dB。歌とギターを同時に録る弾き語りの構成にぴったり寸法で、Auto Gain と Clip Safe(クリップ自動回避)も載っています。マイクを2本同時に立てる予定がないなら、2i2 の機能を1系統に絞って価格を下げた版、という見方ができます。
ゲインもダイナミックレンジも上位と同じ数字なのに入門価格帯、というのが Scarlett 4th 世代の強いところ。ただ「将来もう1本マイクを足すかも」が少しでもあるなら、次の 2i2 を見たほうがいいです。
3. Focusrite Scarlett 2i2 4th Gen — 宅録で迷ったらここ、の定番
2i2 はマイク2本を同時に挿せる2入力2出力で、69dB ゲイン・24bit/192kHz・ダイナミックレンジ120dB。コンバータはフラッグシップ RedNet 系列から降りてきたもので、この価格帯で入力120dB を出してくるのは素直に強い。宅録インターフェースの「とりあえずこれ」が長年ここなのは、仕様と価格のバランスが崩れていないからなんですよね。
マイク+楽器、あるいはマイク2本でデュエットやポッドキャストの2人録り、どっちにも対応できる。Solo より少し出して2入力にしておくと、後から「やっぱり2本要る」になっても困らない。最初の一台で長く使う想定なら、ここが基準点になります。
4. SSL 2+ MkII — 数字の外側に「4K」の音色を足してくる
SSL 2+ MkII は2入力4出力、最大ゲイン64dB、32bit/192kHz、ダイナミックレンジ116.5dB、EIN は -130.5dBu とノイズの低さは立派。ただこの機種の本題はスペック表の外にあって、入力ごとに入れられる「4K」スイッチ。SSL の名機4000系コンソールに着想を得たアナログの音色付けで、高域に艶を足す方向のキャラクターを足せます。
味付けって聞くと曖昧に思えるかもですけど、ボーカルやアコギで「もう一押し前に出したい」ときに、後段のプラグインでやるか入口でやるかの選択肢が増えるのは実用的なんですよね。ヘッドホン2系統で2人モニターできるのも、弾き語り+エンジニアみたいな場面で効きます。素の透明さで選ぶか、音色まで込みで選ぶか、で SSL は分岐点になります。
5. Focusrite Scarlett 4i4 4th Gen — マイク2+拡張枠、伸びしろを買う一台
4i4 は4入力4出力で、プリアンプは Scarlett 4th 共通の69dB・24bit/192kHz・ダイナミックレンジ120dB。2i2 の音質はそのままに、ライン入力と5ピン MIDI I/O が増えています。シンセやドラムマシン、ハードの外部機器を録音に組み込みたい人にとって、この拡張枠がじわじわ効いてくる。
マイクプリ自体は2基なので、同時に立てられるマイクは2本まで。そこは iD14 MkII や SSL 12 と性格が違うところです。「マイクは2本でいいけど、楽器や外部音源を足していきたい」という伸び方をする人に、4i4 はちょうどいいサイズ感です。
6. Audient iD14 MkII — コンソール由来プリと将来の増設口
iD14 MkII はマイク2基にデジタルの ADAT 入力8を足した10入力6出力。プリアンプは Class-A ディスクリート設計で最大58dB、EIN は128dB(A)、ADC のダイナミックレンジは120dB クラスと、Audient が業務用コンソールで培ったプリの素性を持ち込んでいます。ゲインの数字こそ控えめですが、ノイズの低さと音の質感で評価されてきた系譜です。
注目は ADAT 入力。最初はマイク2本で始めて、後からマイクプリアンプを8ch足したくなったら、ADAT で増設できる。「いまは2本、でも将来バンド録りもあるかも」という人の、出口を塞がない選び方ができます。卓のような操作感をデスクで、というキャラクターです。
7. SSL 12 — マイク4本同時、一発録りまで見据える人へ
SSL 12 は12入力8出力、SSL プリアンプを4基搭載し、最大ゲイン62dB、EIN -130dBu、32bit/192kHz。入力のダイナミックレンジは111dB、ADAT で8ch増設、トークバックマイクも内蔵しています。マイクを4本同時に立てられるので、ドラムのオーバーヘッド+αや、複数人のポッドキャスト、小編成の一発録りが視野に入ってくる。
これは「机で歌を録る」より一段大きい用途の入口なんですよね。プリが4基あるということは、同時に4つの音源をそれぞれ独立して録れるということ。5万円台後半からと価格は上がりますが、多入力が必要な人にとっては、2入力機を後で買い直すコストを先に潰しておける選択になります。使う予定もないのに12入力を眺めてワクワクしちゃうのは、まあ沼の入口の顔なんですけど。
用途から指名する — どの数字を優先するか
正解は人によって変わります。同じ予算でも、録る対象が違えば指名する機種が入れ替わるんですよね。
在宅会議とたまの録音だけなら、2入力の入門機で十分。 Smartgain で迷わない EVO 4 か、自動ゲインの付いた Scarlett Solo。ここはダイナミックレンジの数字を1dB単位で気にするより、設定で挫折しないことの方が効きます。
弾き語りを録りたいなら、マイク1+楽器1が同時に挿せる構成。 Scarlett Solo がちょうど寸法ぴったり。声とギターを別トラックで録れるので、後からバランスを直せます。
マイク2本(デュエット・2人ポッドキャスト)まで見るなら、2i2 を基準に。 69dB ゲインと120dB ダイナミックレンジを2系統持てて、価格と仕様のバランスが崩れない。長く使う最初の一台として置きにいくならここ。
外部シンセや機材を足していくなら、4i4 の MIDI と追加入力が効く。 マイクは2本のままでいいけど、ハード音源を録音に組み込みたい人向けの伸び方です。
入口に音色を足したいなら、SSL 2+ MkII の4K。 透明さで勝負する Focusrite に対して、SSL は色を足す方向の選択肢を持っています。素材を後で加工するか、入口で性格をつけるか、の好み。
将来マイクを増やす予感があるなら、ADAT を持つ iD14 MkII か SSL 12。 いまは2本でも、ADAT で後から8ch足せる出口があるかどうかで、買い直しのコストが変わります。同時4本まで一気に行くなら SSL 12。
全員にオーディオインターフェースが要るわけじゃない
ここは正直に書いておきます。用途によっては、オーディオインターフェースを買わない方が早い場面もあるんですよね。
在宅会議で「声が聞き取りやすくなればいい」だけなら、USBマイク単体で完結します。インターフェース+XLRマイク+ケーブル+マイクスタンドと一式そろえるより、3,000〜15,000円のUSBマイク1本の方が、机も配線もすっきりするし設定も少ない。会議用途の選び方はUSBマイク6機種の仕様比較にまとめてあります。
オーディオインターフェースが効いてくるのは、(1) XLR接続のマイクを使いたい、(2) ファンタム電源が要るコンデンサーマイクを鳴らしたい、(3) 楽器をライン入力したい、(4) 低遅延でモニターしながら録りたい、のどれかに当てはまるとき。USBマイクからXLR構成へ乗り換える分岐点そのものはUSBマイクからXLRへ乗り換える話で扱っているので、「そもそも要るんだっけ」をまず確かめてから戻ってきてもらえれば。急いで上のクラスを買う必要はないです。
ここで引っかかりやすい論点
Q. 結局、音質は値段に比例するんですか?
マイクプリのノイズの低さやダイナミックレンジは、上位機ほど詰められているのは事実です。ただ宅録の現実だと、2万円台の Scarlett 2i2 でも入力120dB あるので、ここから上は「体感できる差」より「特定用途の機能差」になっていく。多入力・ADAT・音色付けといった機能が要らないなら、入門〜中位で頭打ちにはなりにくいです。
Q. 32bit対応の SSL は、24bit の Focusrite より上ですか?
ビット深度が上がると理論上のダイナミックレンジの天井は上がりますが、実機の入力ダイナミックレンジは SSL 2+ MkII が116.5dB、Scarlett 2i2 が120dB と、むしろ Focusrite の方が高い数字です。32bit/24bit の表記だけで優劣は決まりません。実効のダイナミックレンジと、自分が使う機能で見た方が現実的です。
Q. ゲイン69dB と58dB、10dB差は体感できますか?
感度の低いダイナミックマイク(SM7B など)を使うと差が出ます。58dB 機だとゲインを上げきってノイズも一緒に持ち上がりやすく、別途インラインのゲインブースターが要る場面も。コンデンサーマイクや出力の大きいマイク中心なら、58dB でも足りることが多いです。「どのマイクを使うか」とセットで考える項目ですね。
Q. Audient iD14 MkII の ADAT って、最初から要りますか?
最初は要らないことが多いです。価値は「後から増やせる出口がある」ことそのもの。いまマイク2本で始めて、将来バンド録りやドラム録りに広げる予感があるなら、ADAT 付きを選んでおくと買い直しを避けられる。予感がないなら、その予算を別のところ(マイクやヘッドホン)に回す方が効きます。
Q. 中古でハーマンミラー的に「型落ち上位機」を狙うのはアリ?
旧世代の上位機(Scarlett 3rd 世代や SSL 2 初代など)が中古で出ていることはあります。プリアンプの素性は世代でそこまで激変しないので狙いとしてはアリですが、最新世代はゲイン増量(Scarlett は56→69dB)や自動ゲインなど使い勝手が上がっています。価格差と機能差を見て、新品入門機と天秤にかけるのがいいです。
帰結 — 「何入力か」より「何を録るか」から逆算する
7台を並べてみると、各社の性格はけっこうはっきりしていました。Focusrite はゲインとダイナミックレンジの素直な高さ、Audient はプリの質感と ADAT の拡張性、SSL は音色付けと多入力。どれが優れているという話ではなくて、自分が録りたい対象に対して、どの数字を優先するかで指名先が変わる、という構図です。
選ぶときの順番は「予算 →入力数」ではなく、「何を録るか → 必要なマイク本数と機能 → その条件を満たす中で予算」で逆算するのが詰みにくい。会議だけならインターフェースすら要らないかもしれないし、一発録りを見据えるなら最初から多入力を入れておく方が安い。スペック表は、その逆算の地図として使ってもらえればと思います。
本記事は2026年6月時点の各社公式仕様に基づいています。新型や価格改定が出たら、数値と